株式会社三菱総合研究所は、経済産業省の委託により現在実施している 「オープンソースソフトウェア技術者の人材開発に関する調査」の一環として、 「FLOSS-JP オープンソース / フリーソフトウェア開発者オンライン調査日本版」 と題するオンラインアンケート調査を行った。 本調査は、オープンソース / フリーソフトウェア開発者からオンラインアンケートで直接意見を収集することにより、 日本におけるオープンソース / フリーソフトウェア (OSS/FS) 関連技術者の実態を明らかにすることを目的としている。 本調査の結果は、関係する技術分野に対する人材育成、技術振興施策などに活用される予定である。
近年、日本でもLinuxをはじめとするオープンソース/フリーソフトウェア(OSS/FS)が 注目を集めている。OSS/FSの機能、性能、信頼性の向上を受け、 単なる低コストソリューションというだけでなく、 ミッションクリティカル分野や組み込み機器までさまざまな用途に利用され始めている。 また、日本のITベンダはOSS/FSの利用だけでなく開発にも参加しはじめ、 日本政府もいくつかの支援事業で後押ししている。 この背景には、日本のソフトウェア産業が海外に過度に依存することへの危機感がある。 すなわち日本のパッケージソフトウェア市場、 特に基盤となるOSやミドルウェアは海外製品に席巻されている現状では、 将来技術力が低下し日本のソフトウェア産業が空洞化するのではないかという懸念がある。 ソフトウェアの基盤技術を含むOSS/FS開発の振興は、 この問題の一つの解決策と見なされている。
しかし、日本のOSS/FS開発は20年近い歴史を持つが、 企業ではなく個人のボランティアベースで進められてきたため、 従来の産業振興策ではOSS/FS開発者を十分に支援できないと考えられる。 しかも、OSS/FS開発者の実態は過去に調査されたことがなく、必ずしも明らかではない。 どうすればOSS/FS技術者を支援し育成することができるのか。 この疑問に答える第一歩として、我々は 「FLOSS-JP オープンソース / フリーソフトウェア開発者オンライン調査日本版」 と題するOSS/FS開発者個人に対する実態調査を行った。
本調査は、2002年に欧州で実施されたFLOSSサーベイ (*1)、 2003年前半に米国で実施されたFLOSS-USサーベイ (*2) の日本版に相当する。 FLOSS調査は、欧州委員会のISTプログラムの支援を受け、 オランダのマトリーヒト大学 (International Institute of Infonomics University of Maastricht) が2002年に実施した。 FLOSS-US調査は国立科学財団 (NFS) の支援を受け、 スタンフォード大学の経済政策研究所 (Stanford University's Stanford Institute for Economic Policy Research (SIEPR)) が2003年に実施した。
調査は2003年9月1日から11月1日までの約2ヶ月間、 三菱総合研究所のウェブサイト http://oss.mri.co.jp/floss-jp/ においてオンラインアンケートシステムを用いて実施した。 重複回答を防止するために、アンケート案内ページで回答者にメールアドレスを登録してもらい、 アンケート実施ページのURLをそのメールアドレスに通知した。 また、オープンソース関連イベント会場においても、アンケート用紙を配布した。 質問数は55問ですべて選択式である。回答には20〜30分を要する。 アンケート対象者は、いくつかのコミュニティを通じて募集した、 オープンソースあるいはフリーソフトウェア開発者であると自認する人々であり、 我々は特に制限は行っていない。
調査の設問は、世界的な比較をするために、 その多くを欧州FLOSS調査および米国FLOSS-US調査に由来する。 そのためFLOSS調査のリーダ Rishab Aiyer Ghosh 氏と協力した。 調査範囲は以下のような内容である。
約2ヶ月間の調査に対して、合計547名 (オンライン:487名、会場記入:60名) の方から回答をいただいた。FLOSS調査の2,784名、FLOSS-US調査の1,588名と比 較すると、回答者数は少ないが、欧州FLOSS調査、米国FLOSS-US調査が全世界 (主 として欧米) を調査対象にしている。これに対し、本調査は日本人のみを対象にしており、 1ヶ国の開発者の調査規模として考えると充分な数の回答者が集められたといえる。
以下、欧州調査と米国調査の結果と比較しながら調査結果を分析していく。
まず、OSS/FS開発者個人のプロフィール (性別・家族構成・職業など) を見てみる。
図1 (Q46) 性別
一般的にソフトウェア開発者という職業は男性が多い。 OSS/FS開発者も男性がほとんどを占め、女性はわずか2%にすぎない (図1)。
欧州調査、米国調査も同様であり、世界的に男性が中心となってOSS/FS開発をし ているといえる。
図2 (Q47) 家族構成
OSS/FS開発者は開発時間を確保しやすい未婚者が中心だといわれている。 そこで家族構成 (婚姻状況) を調査したところ、図2のように未婚者が61.5%だった。 平成12年度の国勢調査の結果をもとに、 回答者の年齢分布から平均未婚率を求めると52.5%である。 本調査の回答者の未婚率の方が9ポイント高く、OSS/FS開発者には未婚者が 多いことが明らかになった。 後述するように高学歴者が多いことがひとつの要因であろう。
欧州調査、米国調査と比較すると、未婚 (特定パートナなし) の回答者が41.4%と 39.1%であり、日本の50.3%がやや突出している。
開発者の年齢を直接聞くことは日本ではあまり問題にならないが、欧米諸国では プライバシーの面から避けられている。本調査でもこれに習い、OSS/FS開発に参 加した年とその時の年齢を回答していただき、そこから現在の年齢を推計するこ ととした。
図3 (Q4) OSS/FS開発に関与しはじめた年
図4 参加年数
OSS/FSの登場は決して新しいものではない。1984年頃にRichard StallmanがGNUプ ロジェクトを立ち上げたのがフリーソフトウェア運動のはじまりである。調査の 結果、図3, 図4のように日本でも1990年前後から開発を始めている人が10%程度いることが明らか になった。とはいえ、活発になって来たのはやはり最近のことであり、2000年以 降にOSS/FS開発に関与しはじめた開発者が半数以上 (52.6%) を占めている。
図5 (Q5) OSS/FS開発に参加したときの年齢
開発に参加しはじめた年齢の分布を図5に示す。開発への参加は19歳以降急速 に増え、22歳がピーク (7.1%) である。その後徐々に割合は低下し、40代以上から 参加した人はわずかである。時間に余裕のある大学生の頃に 興味をもつか、社会人になって仕事関連で触れるようになった開発者が多いこと を示唆している。
図6 現在の年齢
開発に参加した年とその時の年齢から現在の年齢を導くと、図6のような分布が 得られた。20代半ばから30代半ばが中心となって活動していることがわかる。
開発に参加した年齢と現在の年齢の平均を求め、欧州調査、米国調査と比較した ものを表1に示す。2000年頃、26歳前後で開発に参加しはじめ、現在30歳 前後、というのが平均的な開発者だといえる。欧州、米国と比較すると、日本の 方が3〜4才平均年齢が高く、参加年数は約1.5 年短い。これより、日本でOSS/FS が活発になった時期は欧米に比べて1年半程遅く、中心は学生ではなく社会人だ といえる。
表1 開発参加年、参加年齢、現在の年齢の平均、メディアン
| 日本 | 欧州 | 米国 | ||||
| 平均 | メディアン | 平均 | メディアン | 平均 | メディアン | |
| 開発参加年 | 1998.4 | 2000 | 1996.7 | 1998 | 1996.6 | 1999 |
| 参加年齢 | 26.6 | 26 | 22.9 | 22 | - | 22 |
| 現在の年齢 | 31.2 | 31 | 27.1 | 26 | - | 27 |
図7 (Q48) 学歴
図7に回答者の学歴を示す。 約3分の1 (33.6%) が大学院卒 (修士・博士課程卒) であり、かなり 高学歴だといえる。時間に余裕がある大学時代や大学院時代に、趣味で開発を始 めた人も多いのではないかと推察される。その一方で、中学・高校卒も22.5%お り、開発には幅広い学歴の人が参加している。OSS/FSの開発には必ずしも学歴を 必要とせず、意欲さえあれば誰でも参加できるということを示している。
欧州、米国でも高学歴者が中心という同様な傾向を示しており、特に米国調査で は修士卒以上が42.9%を占めている。
図8 (Q49) 業種
開発者の職業はソフトウェア関係が多く、ソフトウェア技術者が41.1%、プログ ラマが10.0%である (図8)。趣味としてだけでなく、仕事でもソフトウェア開発に携わっ ている人が約半数いることになる。近年、OSS/FSを仕事で開発する人が増えてい るが、後述のようにまだ少数派である。したがって、仕事とは別にOSS/FSの開発 を行っている人が多い。現役の学生も14.4%おり、情報系学科 (6.5%) よりも情報 系以外 (8.0%) の方が多い。ここでもソフトウェア開発を正式に学ばなくとも、 OSS/FS 開発に参加できているということを意味しているだろう。大学・研究機 関も7.8% いる。この中には研究として開発したソフトウェアをOSS/FSとして公 開している人も少なからず存在すると考えられる。
情報系・情報系以外にわけて業種を調査したが、少人数では統計的にばらつきが 大きくなってしまうので、以降の分析では、表2のように業種をまとめる ことにする。まとめた結果は図9のようになる。
ソフトウェア技術者が多いのは欧州、米国調査においても同様だが、学生の割合 に大きな差がある。欧州では20.9%、米国では28.8%と、日本の1.5〜2倍を占めて いる。さらに、欧州では情報系の学生が学生全体の約3/4を占め、特に日本との 差が大きい。日本と欧米の情報系の教育には何らかの差があるものと推察される。 なお、米国調査では情報系か情報系以外か、という区別はしていない。
図9 統合後の業種
表2 業種の分類
| ソフトウェア技術者 | ソフトウェア技術者 |
| 学生 | 学生 (情報系) |
| 学生 (情報系以外) | |
| プログラマ | プログラマ |
| 大学・研究機関 | 大学・研究機関 (情報系) |
| 大学・研究機関 (情報系以外) | |
| 技術者 (情報系以外) | 技術者 (情報系以外) |
| その他 | コンサルタント (情報系) |
| コンサルタント (情報系以外) | |
| 管理職 (情報系) | |
| 管理職 (情報系以外) | |
| 役員 (情報系) | |
| 役員 (情報系以外) | |
| 営業 (情報系) | |
| 営業 (情報系以外) | |
| その他 (情報系) | |
| その他 (情報系以外) |
図10 開発者の業種別年齢分布
各職業に就いている回答者の年齢分布を調査したところ、図10のようになった。 当然、学生が圧倒的に若い。年齢層が最も高いのは情報系以外の技術者である。 仕事に必要なときに徐々にソフトウェア開発の技術を身につけたため、年齢層が 高くなったのだろう。
図11 (Q50) 開発者の年収
図12 開発者の職業別年収分布
開発者の年収にはばらつきが大きい (図11)。 これは、14.4%を占める学生の年収が低いことが影響している。 実際、職業別に年収を見ると (図12)、学生の87.2%が年収120万円以下である。 一方、情報系以外の技術者は比較的高収入であるが、これは年齢層が高いためと 考えられる。
表3 (Q51) 国籍
| 日本 | 99.8% |
| 米国 | 0.2% |
表4 (Q52) 現居住国
| 日本 | 97.4% |
| 米国 | 1.3% |
| ドイツ | 0.4% |
| その他 | 0.9% |
回答者の国籍・現居住国を表3, 表4に示す。本調査は日本人のOSS/FS開発者を調 査したものであるが、実際、ほとんどの回答者は国籍・現居住国ともに日本と答 えている。なお、現居住地のその他にはアフガニスタンやアルジェリアという回 答も含まれている。これらは選択肢の一番上に並んでいるため、入力操作ミスの 可能性が高い。
図13 (Q53) 出身県、 (Q54) 学生時代に住んでいた (住んでいる) 県、 (Q55) 現 住所 (上段:全体、下段:オンラインアンケートのみ)
出身地・学生時代の居住地・現在の居住地の移り変わりに注目する。図13上段に 居住地の移り変わりを示す。東京と大阪で行われたイベント会場でもアンケート を回収したため、東京・大阪近辺が増加しているおそれがある。これを避けるた め、下段にはオンラインアンケートのみの集計結果を示す。
東京・神奈川・埼玉・千葉の首都圏南部に集中する傾向が強い。特に神奈川は現 居住地で急増しており、就職先となったITベンダが多く存在する影響であろう。 大阪府・愛知県はほぼ横ばいであるが、京都府は学生時代が突出して多い。これ は、京都大学などを中心とした学生サークル活動が盛んであることの表われであ ると考えられる。また、北海道も現居住地で大きく減少しており、OSS/FS開発者 が就職時に流出している。
オープンソースソフトウェアとフリーソフトウェアは厳密には異なる。フリーソ フトウェア運動は1984年頃にRechard Stallmanが始めた「すべてのソフ トウェアに自由を」という標語に代表される一種の社会運動である。 GPLと呼ば れる思想色が強く制約の厳しい (その代りに自由を継続的に保証する) ライセン スで知られている。一方、オープンソースソフトウェアは比較的最近のトレンド である。 1998年にLinux等がビジネスに利用され始めるようになり、フリーソフ トウェアの思想的な側面を弱め、バザール型の共同開発とソフトウェアの自由な 利用という、ビジネス的な利点を強調した運動といえる。しかし、多くの開発者 は互いを認め合い協力しあっている。
本調査では、自分がどちらのコミュニティに属しているか、そして二つのコミュ ニティに違いがあるのかどうかを質問した。 また、作成したソフトウェアのライセンスにはこれらの思想が反映されると考え られるので、どのようなライセンスを適用するかを調査した。
図14 (Q1) オープンソース派かフリーソフトウェア派か
まず、オープンソースとフリーソフトウェアの区別をしているか、しているなら どちらの立場であるか、という質問をした。その結果、多くの回答者 (70.4%) は オープンソースとフリーソフトウェアの区別をしており、オープンソースの方が フリーソフトウェアよりも人気がある、ということがわかった (図14)。オープンソース 派が43.7%、フリーソフトウェア派が26.7%である。また、自分がどちら側か気に しない開発者も29.6%いることが分かった。欧州調査では、48.0%がフリーソフトウェア ウェア派、32.6%がオープンソース派だった。米国調査では、フリーソフトウェアウェ ア派とオープンソース派はほぼ同率で31.4%と31.5%であり、3つの調査でそれぞ れ違う結果が得られた。
図15 (Q2) FSコミュニティとOSコミュニティとの違い
図16 立場による考え方の違い
次に、フリーソフトウェアのコミュニティとオープンソースのコミュニティは同 じか異なるか、という質問をした。図15のようにフリーソフトウェアとオープンソースのコミュニティ を「区別しない」、「原則も仕事の仕方も違う」、「仕事の仕方は同じ」と考え る人がほぼ3分の1ずつで拮抗している。しかし、コミュニティの区別をしない人 の多くはオープンソース側にもフリーソフトウェア側にも立たない中立の人々であり、 どちらかの立場に立つ人は、大部分 (オープンソース側で81.6%、フリーソフトウェア側 で85.6%) が互いの違いを意識している (図16)。また、互いの違いに対する認識も似通っ ており、考え方も仕事の仕方も違う、と答えた人が原則は違うが仕事の仕方は同 じ、と答えた人よりやや多い (47.7%と45.9%)。これらの結果より、コミュニティ の区別をしている人は「なんとなく」ではなく、しっかりとフリーソフトウェア とオープンソースの思想の違いを理解した上でOSS/FSの開発に参加していること がわかる。
図17 (Q3) 選択するライセンス
図18 立場によるライセンスの違い
最後に、自分の作成したコードに他のコードとの依存関係がなく、自由にライセ ンスを選択できるとしたら、どのようなライセンスを選ぶか、という質問をした (図17)。 堅苦しい、難しいと思われがちなライセンスであるが、とくに意識しない開発者 は11.5%と少数だった。好まれるライセンスとしてはGPL互換が最も多く42.0%、 BSDスタイルが30.2%で続いた。立場別に見ると (図18)、オープンソース派にもフリーソフトウェア派にも最も人気 があるライセンスはGPL互換であり、特にフリーソフトウェア派では半数以上 (56.8%) が GPL互換と答えている。一方、無関心派は選択するライセンスも分散しているが、 BSDスタイル (37.0%) を選ぶ傾向が強い。GPLの強硬な思想的側面がやや敬遠され ているのではないかと考えられる。
図19 (Q6) 週平均OSS/FS開発時間
OSS/FSの開発者というと、仕事後や週末に長時間没頭して開発に取り組んでいる、 というイメージがある。 しかし、実際にOSS/FSの開発に費やす時間は意外と短い (図19)。 5時間以下が61.7%である。 つまり時間的にみれば趣味の一つとしてOSS/FSを開発している開発者が多いといえる。 もちろん開発のピークでは長時間集中して取り組むこともあるだろうが、 開発が一段落すれば定常的なメンテナンスはわずかな時間で済むのかもしれない。 ただし、後述するように90.8%はOSS/FSを仕事や学業で利用している と答えており、趣味としてだけでなく何らかの形で仕事に役立つものに関わって いることがわかる。
一方、41時間以上費やしている回答者も5.2%おり、 彼らは業務としてOSS/FS開発に取り組んでいる可能性が高い。
図20 (Q7) 週平均プロプラエタリソフトウェア開発時間
OSS/FS以外にプロプラエタリソフトウェアも開発している回答者は53.1%だった (図20)。 ただし、フルタイム (週40時間以上) でプロプラエタリソフトウェアを開発している人は 11.7%にとどまり、最も多いのは21〜40時間の15.0%だった。
図21 OSS/FS開発時間とプロプラエタリソフトウェア開発時間
OSS/FS開発時間とプロプラエタリソフトウェア開発時間の間に明確な相関は見ら れなかった (図21)。ただし、プロプラエタリソフトウェア開発時間が2時間以下の人は OSS/FS開発時間も短い。
図22 業種別OSS/FS開発時間
図22 は業種によるOSS/FS開発時間の差異を示している。 プログラマや大学・研究機関に属する人は平均よりもやや開発時間が長い。 一方、技術者は2時間以下が55.1%を占め、圧倒的に短い。
図23 業種別プロプラエタリソフトウェア開発時間
職業上プロプラエタリソフトウェアを開発していると考えられるソフトウェア技術者と プログラマは、予想通り約7割がプロプラエタリソフトウェアを開発していた (図23)。 技術者も半数近い44.8%が開発しており、彼らは専門的なソフトウェアを開発し ていると考えられる。
図24 家族構成別OSS/FS開発時間
OSS/FS開発時間を家族構成別にも見てみたが (図24)、パートナのいない未婚者 は時間に余裕があるので長時間の開発をしている、というようなことはなかった。 むしろパートナのいる未婚者が最も長く、パートナのいない未婚者と既婚者は同 程度の開発時間だった。
図25 (Q8) OSS/FS開発対象分野
開発対象分野はネットワーク、ウェブサービスが多く、マルチメディア系は少な かった (図25)。ネットワークやウェブサービスではスクリプトやユーティリティのよう な小さなプログラムが多く、容易に開発できるためだと考えられる。
この順番は欧州調査とまったく同一だった。ただし、ネットワークとウェブサー ビスはともに日本の方が10ポイント以上高い。
開発者がどのような開発言語/ツールを用いてOSS/FSの開発を行っているのかを知 るため、開発プラットフォームや使用言語・ツールなどの質問をした。
図26 (Q9) 最もよく使うプラットフォーム
最もよく使うプラットフォームとしてはLinux系 (RedHat, Debian, Vine, Turbo, Plamo, Gentoo, Mandrake, SuSE, Slackware, その他のLinux) が50.7%でトップである (図26) が、Windowsも31.2%でつづいている。 オープンソースというとLinuxというイメージが強いが、 日本ではWindows上で開発している人も多い。 欧州調査では、Windowsの割合はわずか2.2%にすぎないことと比較 すると際立った特徴である。
図27 (Q10) プログラミングを始めたときに使っていたプラットフォーム
プログラミングを始めたときに使っていたプラットフォームはDOS (22.3%) とWindows (16.1%) が多い (図27)。しかし、その他と答えた開発者が33.8%いる。 その他にはかつてNEC PC-9801シリーズにバンドルされていたN88-BASICやポケッ トコンピュータなどが含まれると考えられる。
図28 (Q11) OSS/FS開発を始めたときに使っていたプラットフォーム
OSS/FS開発を始めたときに使っていたプラットフォームは最もよく使うプラット フォームと同様にLinuxとWindowsが多いが、その割合はやや低い (図28)。DOSやSolaris などからWindows、Linuxへとプラットフォームが移行したものと予想される。
図29 (Q12) 経験のある開発言語/ツール
図30 経験のあるプログラミング言語
開発言語としてはC、C++、Javaといったメジャーな言語が上位にはいった。 また、47.8%の開発者がSQLの経験があり、データベースを利用したシステム開発 に携わる開発者が多いことが推察される (図29, 図30)。
図31 経験のあるスクリプト言語
スクリプト言語としてはJavaScriptとPHPが3、4位に入っている (図31)。開発対象にウェ ブサービスが多いことから、開発の過程でJavaScriptやPHPを学んだものと考え られる。
図32 経験のある開発ツールなど
開発ツールは、54.2%の人がCVSを利用し、XML/SGMLの利用者も34.7%おり、リテ ラシーの高さをうかがうことができる (図32)。
図33 (Q13) 最もよく使うデスクトップ環境
デスクトップ環境としてはWindowsが最も利用されているが (43.7%)、 XWindow上で作業している回答者もX+Window Manager、GNOME、KDEあわせて46%おり、 OSS/FSのデスクトップ環境も少なくとも彼らにとっては実用的であるといえる (図34)。
図34 (Q14) 最もよく使うエディタ
エディタとしてはEmacsが最も好まれている (41.0%, 図34)。 その他のエディタにはWindows上のエディタ (秀丸など) が含まれると考えられる。
OSS/FSコミュニティへの関わりを時間的側面からだけでなく、プロジェクトの面 からも調査した。調査内容は参加した/しているプロジェクト数、コンタクトの ある開発者数、リーダ経験といったことである。
図35 (Q15) これまでに参加したことのあるプロジェクト数
これまでに参加したことのあるプロジェクト数はそれほど多くない (図35)。 5プロジェ クト以下が79.2%、10プロジェクト以下だと87.0%である。2〜3プロジェクトと いうのが平均的な数である。平均経験年数が4〜5年であることからも妥当な数で あろう。傾向としては、一つのプロジェクトに専念するというより、複数のプロ ジェクトに関わる方が主流である。 100を越えるプロジェクトに参加した回答者 もいる。 DebianやFreeBSD/NetBSDのパッケージ管理に携わるような開発者では ないかと推察される。
図36 (Q16) 現在参加しているプロジェクト数
現在参加しているプロジェクト数は少なく、1個、2個と答えた人が35.9%と21.3%、 1個も参加していないという人が20.5%だった (図36)。4.6%の人は6個以上のプロジェク トに関わっている。
図37 現在の年齢と累計プロジェクトの関係
年齢別にこれまで関与したプロジェクトの数を見ると (図37)、24〜26歳が積極的に 関与していることがわかる。プロジェクト数が0と答えた人はわずか2.5%であり、 10個以上の人も15.0%いる。一方、36歳以上は10個以上と答えた人の割合が最も 高く、16.8%だったが、0個と答えた割合も最も高い19.6%であり、積極的な人と そうでない人の差が大きいといえる。
図38 参加年数と累計プロジェクト数の関係
OSS/FSの開発に関わっている年数と関与したプロジェクトの数を見ると (図38)、 当然のことながら、年数が長くなるにつれてプロジェクト数も増える。例外は11 年以上であり、累計プロジェクト数が0の回答者の割合は1年未満に次いで2番目 に多い17.3%である。
図39 業種と累計プロジェクト数の関係
業種とプロジェクト数の間にははっきりとした相関はない (図39)。学生は参加年数が短 いためやや少なく、大学・研究機関と技術者 (情報系以外) はやや多い。
図40 (Q17) 現在リーダとして参加しているプロジェクト数
リーダ経験はない人の方がやや多い (56.6%) が、残りの人は自分がプロジェクト を率いたことがある (図40)。つまり、自分自身でプロジェクトを立ち上げる形で参加 している開発者がかなり多いといえる。
欧州調査では、リーダ経験が無い人は35.2%と、日本より21.4ポイントも少ない。 これは、開発に参加している期間が日本より平均値で1.7年、メディアン値で2年 長いことが関係していると考えられる。
図41 現在の年齢とリーダ経験の関係
現在の年齢別にリーダ経験を見ると (図41)、20歳以下と27〜30歳でリーダ経験者が 多い。20歳以下は若く、参加年数も短いためリーダ経験数は多くても2プロジェ クトであるが、リーダ経験者の割合は高く (51.5%)、積極的にプロジェク トを率いている。今後のOSS/FSの発展が期待される。
図42 参加年数とリーダ経験の関係
参加年数が長くなるにつれ、リーダ経験回数は増加する傾向にあるが、経験が ない人の割合はあまり変わらない (図42)。自分でプロジェクトを率いたい人はすぐに立 ち上げ、そうでない人はずっと立ち上げないようである。ただし、8〜10年目の 人はリーダ経験無しの人が3分の1を占め、圧倒的に多い。累計プロジェクト数 は特に少なくないので、他人がメインの開発を行っているプロジェクトに他言語 化や日本語対応という形で参加してきたと考えられる。
図43 業種とリーダ経験の関係
業種別にリーダ経験を見ると (図43)、大学・研究機関のリーダ経験が最も多い ことがわかる。大学・研究機関により作成されるソフトウェアは自身の研究のた めに作成されるものであり、自分自身が開発リーダであるプロジェクトが必然的 に多くなることを表わしている。
図44 (Q18) 定期的にコンタクトのあるコミュニティメンバ数
OSS/FSコミュニティへの関与を知るために、開発者がどれくらいの人と定期的に コンタクトを取っているかを調べた。中には100人以上と連絡を取っている開発 者もいるが、全体的には比較的少なく、0人が34.6%、1〜5人が計33.3%だった (図44)。0 人という人は個人的に小さなプログラムを製作・公開していると考えられる。こ のような状況ではバザールモデルと呼ばれるオープンソース型開発のメリットを 生かしているとはいえず、より大きなプロジェクトに発展させていくためにはコ ミュニケーションを活発にしていく必要がある。
図45 リーダ経験とコンタクトのあるコミュニティメンバ数の関係
リーダ経験別で見ると (図45)、 プロジェクトを重ねるにつれコンタクトをとるメンバ数が増加している。
図46 累計プロジェクト数とコンタクトのあるコミュニティメンバ数の関係
関与したプロジェクト数別に見ると (図46)、プロジェクト数の増加とともにコンタクト 人数も増加している。6個以上のプロジェクトに関わった人は4割以上 (6〜10個で 40.4%、11個以上で50.0%) が11人以上の人と定期的にコンタクトを取っており、 活発なコミュニティを形成しているといえる。
図47 (Q19) 主な活動の拠点
OSS/FSの開発に国境は無いが、当然すべての開発者がグローバルコミュニティと 接点を持っている訳ではない。主な活動の拠点は国内コミュニティのみの人が 62.3%だが、多かれ少なかれグローバルコミュニティに参加している人も37.7%い る (図47)。一般的な趣味の世界で4割もの人がグローバルな活動に参加している分野は 珍しい。 OSS/FS開発への参加動機として、グローバルな活動ができるというも の一つの理由であろう。
図48 (Q21) 英語の読み書き、英会話に関する能力
図49 英語力と参加コミュニティの関係
グローバルコミュニティに参加するには最低限の英語力は必要であるが、日本人 は英語が苦手といわれている。実際、英作文が苦手だと感じている人は多く、 68.3%にのぼる (図48)。参加コミュニティも英語力に応じて変化し、英作文が できるかできないかでグローバルコミュニティに参加する割合が大きく変わって いる (図49, ML に投稿できるレベルでは64%、作文と会話が苦手なレベルでは 29.5%がグローバルコミュニティに参加)。グローバルコミュニティに参加するに は、相手を論理的に説得できる英語力が必要である。一方で、英語力が低くても グローバルコミュニティに参加している人も一定数おり、要は勇気と努力次第と いうこともできる。
図50 (Q20) OSS/FS開発に参加する主な活動の種類
OSS/FS開発に参加する主な活動の種類としては、コーディング関係 (メイン機能の 開発、バグフィクス、改良パッチの作成、テスト) をあげた人が上位に入ったが、 ドキュメント作成・翻訳やサポートを行っていると答えた人も10〜15%ずつおり、 コーディング以外で貢献している開発者も多数存在することがわかった (図50)。 コーディングができなくてもOSS/FSへの関与方法はいろいろある、といえる。
図51 (Q22) 知っているOSS/FSコミュニティリーダ
キープレーヤの調査のため、有名なOS開発者の一覧を提示、知っている人すべて にチェックしてもらった (図51)。ただし、実在しない人物を3人 (Martin Hoffstede, Angelo Roulini, Sal Vallinger) 混ぜ、不正な入力を排除可能にした。
Linux開発者のLinus Torvalds, GNUの創始者のRichard Stallman, オープンソー ス運動の草分け的存在のEric Raymondの3氏の知名度が突出している。それでも 欧州調査と比較すると12〜20ポイント程度低く、また、誰も知らない回答者が 11.3%いることから、日本人はあまりキープレーヤを意識していないことがわか る。また、欧州調査では82%の得票を得て3位に入ったGNOMEを立ち上げたMiguel de Icazaは日本での知名度はかなり低く、17.9%である。なお、その他の人物は 以下のような立場でOSS/FSのリーダ的役割を果たしている。
図52 (Q23) OSS/FSの仕事や学業での利用
OSS/FSを趣味としてだけでなく、仕事や学業でも利用しているか調査したところ、 90.8%はOSS/FSを仕事や学業で利用していると答えた (図52)。 その利用目的は、アプリケーションのエンドユーザとして (83.2%) とプログラム 開発ツールとして (82.2%) という人が圧倒的に多かった (図53)。
図53 (Q24) OSS/FSの利用分野
図54 (Q25) 保有するOSS/FSに関する資格
図55 (Q26) OSS/FSの開発に関する知識を学んだ場所
図56 学習方法と資格の保持、不保持の関係
OSS/FSに関する資格を持っている人はわずか7.9%にすぎない (図54)。これは OSS/FSの開発に関する知識を学んだ場所と関連があった。独学もしくはコミュニ ティから学んだ人があわせて71.1%であり (図55)、そのうち資格を持っている 人はわずか6.9%と2.2% である (図56)。彼らの多くは趣味的なものからOSS/FSに 関与を始めたと考えられ、そのため資格を取得しても特にメリットがない。一方、 企業の実務や情報系の大学で学んだ人は比較的資格保持率が高い。彼らには待遇 や就職の面で資格取得のメリットがあるからだと考えられる。
図57 (Q27, Q28) OSS/FS開発に参加する動機
自分/他人がOSS/FS開発に参加する動機は何か、自分/他人はOSS/FSコミュニティ に何を期待するか、OSS/FSコミュニティの目的は何か、という5つの質問に対し ては、いずれも知識やスキルの獲得、共有が目的だと考える人が多数を占めた (図57)。OSS/FSを自分のスキル向上に役立てたいということが最大の動機になっ ている。ソフトウェアの新しいアイデアを実現したい、あるいは、他の開発者の OSS/FSを改良したい、というソフトウェア自体を発展させたいという動機も多い。 そして、プロプラエタリソフトウェアではできないことの実現、プロプラエタリ ソフトウェアはよくないと考えるから、ということがつづいている。フリーソフ トウェア運動がOSS/FS 開発者に浸透していることが読み取れる。自分の考え方 と他人の考え方を比べると、他人の方がプロプラエタリソフトウェアの善悪を重 視していると考えており、自分はそうでもないが他人はきっと気にしているだろ うと見なしていることは興味深い。
欧州調査、米国調査でも同様に、スキルの獲得と共有が主な動機となっている。 ただし、米国調査では「自分でソフトウェアを自由に改造したい」という動機が トップである。
図58 立場によるOSS/FS開発に参加する動機の違い
参加する動機は開発者の立場によって異なった (図58)。フリーソフトウェア派 は知識・スキルの共有を重視し、ソフトウェアがプロプラエタリなのは良くない と考える傾向にある。フリーソフトウェアの精神に共感している開発者が多いこ とがうかがえる。オープンソース派は他の開発者によるOSS/FSを改良し、収入も 得たいと考える傾向にある。これもオープンソースが出現した理由と合致してい る。立場を気にしない開発者は、「知識を共有するため」、「OSS/FSに参加する ため」、「仕事の機会を増やすため」、という気持ちは小さく、スキルを学び、 新しいアイデアを実現したいと考えている。純粋に趣味で参加しているといえる だろう。
図59 (Q29) OSS/FSへの最初のかかわり
OSS/FSへの最初のかかわりは自分のプログラムの公開 (36.5%) やパッチの送付 (16.2%) のようにコーディングがきっかけの人が約半数だが、残りの半数の人は コミュニケーションやドキュメント関連から参加した人である (図59)。活動の 種類と同様にここからも、OSS/FSへの参加はコーディングだけではない、という ことがうかがえる。
図60
(Q30) 他のOSS/FS開発者へ期待すること
(Q31) 他の開発者があなたに期待すること
自分が他人に、もしくは他人が自分に期待することとしても、やはり知識の共有 や獲得が多い (図60)。一方、「プロプラエタリソフトウェアでは解決できない 問題を解決」したり、「ソフトウェア商品の新しいアイデアを実現」したりする ことは自分ではなく他の開発者へ期待しており、開発に参加した動機と同様の傾 向を示している。
図61 (Q32) OSS/FSコミュニティが存在する目的
OSS/FSコミュニティの目的は様々だが、競争や物質的な欲求のためというよりも、 みんなで楽しく、切磋琢磨しながらよりよいソフトウェアをつくることとまとめ られよう (図61)。
図62 (Q33, Q34) OSS/FSコミュニティから得る利益と、コミュニティに対する貢献を比 べたときの自分のバランス・他人のバランス
自分と他人の利益・貢献のバランスは、自分の受け取る利益が他人へ与える貢献 を上回っているという回答が多い (図62)。コミュニティを通してお互いに助け 合っており、コミュニティメンバの多くが利益を得、さらにコミュニティに関 わるようになる、という好循環が生まれているものと考えられる。
ソースコード類への署名は、自分が仕事をした証明である。そこで、開発者が署 名に対してどのような認識をしているのか調査した。
図63 (Q35) ソースコードへの署名
図64 年齢と署名に対する意識
図65 職業と署名に対する意識
ソースコードに自分の署名を記載するか、という問に対しては92%が記載する、 と答えたが、本名で記載すると答えたのは36%にとどまった (図63)。年齢別に 見ると (図64)、23歳以下、特に20歳以下 (学生が多いと考えられる) ではハン ドルで記載する傾向が強い。実際、職業別に見ると (図65) 学生はハンドルを好 んでいる。また、プログラマは楽しみながら開発をしているためか、署名に対す る意識が低い。一方、技術者 (情報系以外) は意識が高い。これは職業柄特許など の権利を常に意識しているからだといえる。
図66 (Q36) OSS/FSに関連した収入源の有無とその手段
図67 職業別 OSS/FS関連の収入
OSS/FSに関連した直接的な収入を得ている開発者は26.8%に過ぎない (図66)。 70%以上は純粋な趣味としてOSS/FSを開発している。職業別に見ると (図67)、 ソフトウェア技術者とプログラマで報酬を得ている割合が高く、彼らはソフトウェアウェ ア開発の対価として報酬を受け取っている。
報酬を受け取っている人の中では金銭的報酬以外の間接的な報酬を得ている開発 者の方が若干多い (図68)。直接的・間接的を関わらず、報酬をもらっていない 人は47.4%であった。欧州調査では金銭的な補助を受けている人が53.7%、米国調 査でも43.2%おり、日本でも今後増える傾向にあると考えられる。 間接的報酬の 中で、OSS/FS開発の経験が就職・転職に役立ったという開発者が9.6%いることは 注目すべきである。OSS/FS 開発がソフトウェア開発者の経験として認知され始 めていることを意味しているからである。今後OSS/FS開発自身で収入を得られる ようになれば、就職・転職の際の有力なアピールポイントとなるであろう。
図68 (Q37) OSS/FSに関連した間接的な報酬
図69 職業別 OSS/FS関連に関連した間接的な報酬
職業別に見ると (図69)、OSS/FS関連の収入源と同様、学生と技術者は割合が低い。 また、大学・研究機関の割合が最も高い。しかし、いずれの職業でも仕事とは直 接関係ない報酬が最も多い。
図70 (Q38〜41) 支援を受けた回数
図71 (Q38〜41) 支援を受けた回数 (1回以上のみ)
OSS/FS関連での外部からの支援は近年増加傾向にある (図70, 図71)。 6年前 以前はわずか2%だったのが、3〜5年前には約12%になり、 2年以内に限定すると 約20%の開発者が外部からの支援を受けている。過去を総計すれば26.1%の開発者 が支援を受けた経験を持つ。支援元は政府・公的基金が最も多く、ハードベンダ、 SIer、個人的寄付、ディストリビュータ、大学・学校と続く (図72)。 OSS/FS は多様な支援元があるといえるだろう。
日本では一番の支援元となっている政府・公的基金は米国調査では5番目であり、 欧米と比べ、日本では民間からの支援が少ないといえる。
図72 (Q42) 過去5年間の支援元
図73 (Q45) 昨年度にOSS/FS関連で得られた収入
現在直接的収入を得ている開発者もその多くは、120万円以下である (図73, 12.3%)。多くは仕事の一部分がOSS/FS開発であり、それ以外の仕事も並行して行っ ているということになる。純粋にOSS/FSの開発だけで食べて行ける開発者は10% に満たず、 OSS/FS開発のみで生活をすることは厳しいことがわかる。一方で、 少数ながらも600万円以上収入がある開発者もおり、一部の企業ではOSS/FSを仕事 として認められているといえる。
図74 OSS/FS関連収入別 立場
図75 OSS/FS関連収入別 使用ライセンス
OSS/FS関連で収入を得ている人はどのような考えを持ち、どのような立場にいる のか、ということを詳細に見てみる。小遣い程度に収入を得ている開発者と OSS/FS開発を主な収入源としている開発者には違いがあると考えられるため、 収入なし、120万円未満、120万円以上の3段階に分類した。
まず、図74より、OSS/FS関連で収入を得ていない開発者には立場を気にして いない人が多く、収入を得ている開発者はオープンソース派が多いことがわかる。 また、ライセンスとしてはGPL互換が好まれ、半数以上 (120万円未満:51.5%、 120万円以上:54.0%) に採用されている (図75)。
図76 OSS/FS関連収入別 開発参加動機
OSS/FSへの参加動機は、知識・スキルの獲得と共有を除くと、収入によって異なっ ている (図76)。120万円以上の収入を得ている開発者は、OSS/FS関連の収入で 生計を立てていると考えられ、生活に関わる動機が大きい。40.0%が収入を得る ため、22.0%が仕事の機会を増大させるため、と答えた。プロプラエタリソフト ウェアではなく、OSS/FSで収入を得ているのは、ソフトウェアがプロプラエタリ なのは良くないと考え (30.0%)、プロプラエタリソフトウェアでは解決できない 問題を解決したい (34.0%) と考えているからだといえる。
120万円未満の収入を得ている開発者は、自分から新しいソフトウェアを開発し よう、という気持ちは小さいものの、既存のソフトウェアに対する不満を解消し よう、と考えている。これは、「ソフトウェア商品の新しいアイデアを実現する ため」が13.6%と平均より低く、逆に「他の開発者によるOSS/FSを改良するため」 (30.3%) や「ソフトウェア会社の能力に限界を感じるため」 (16.7%) が平均より高 いことからいえる。収入や仕事を得たい、という動機は10.6%と15.6%であり、無 収入と120万円以上の開発者の中間になっている。
OSS/FS関連での収入が無い回答者は知識・スキルの獲得を特に重視している (62.9%)。収入・仕事の獲得 (3.8%と10.5%) やソフトウェアに対する思想 (プロプ ラエタリソフトウェアはよくない:11.4%) は収入があるひとに比べると重視せず、 市場価値の少ないソフトウェアを普及させたり (11.2%)、新しい協同形態に参加 したり (11.2%) して、新しいものや珍しいものに触れたい思っている。
図77 OSS/FS関連収入別 活動場所
活動場所は収入が増えるほどグローバルに活躍している (図77)。0円以下では3 分の1の33.3%しかグローバルコミュニティに参加していないが、120万円以上に なると58%もの人がグローバルコミュニティに参加している。
図78 OSS/FS関連収入別 署名に対する意識
署名に対する意識はOSS/FS関連の収入の有無によって差が出ており、本名で記載 する人の割合は収入がない人は29.8%、ある人は54.5% (120万円以下) と50.0% (120 万円以上) である (図78)。収入を得るためには自分のした仕事をアピールする 必要があり、そのために署名は欠かせないのだろう。
図79 OSS/FS関連収入別 コンタクト人数
コンタクトを取っているメンバの数は収入が増加するほど増加する傾向にある (図79)。ある程度プロジェクトの規模が大きくないと収入を得にくいと考えら れ、その結果、メンバの数も増加していると考えられる。
以上を総合的に判断すると、OS/FS関連で収入を得ている開発者はOSS/FSにおい て中心的な役割を果たしている人だといえる。彼らは国内、海外を問わずグロー バルなコミュニティに参加し、大勢とコンタクトを取っている。そして、プロプ ラエタリソフトウェアは良くないと考え、GPL互換のライセンスを好んでいる。
図80 (Q43) OSS/FS開発認知 (現状)
図81 (Q44) OSS/FS開発認知 (希望)
そこで、会社 (学校) が回答者のOSS/FS開発への関わりを認知しているか調査し た。その結果、7.2%がOSS/FS開発のために働き、対価をもらっていることが明ら かになった (図80)。しかし、多くの開発者 (40.8%) は会社 (学校) にOSS/FSに かかわっていることを知られてなく、関わっていることを認めて欲しい (29.4%)、 対価を認めて欲しい (24.2%) と感じている (図81)。本当は仕事としてOSS/FSに 関わりたいというのが、 OSS/FS開発者の願いである。
米国調査では「会社は関与を知っている」が59.2%、「会社は関与を知らない」 が22.6%であり、会社への認知度がかなり高いことを示している。また、「会社 が仕事に任命」した人も27.4%おり、日本企業の認知の遅れが目立つ。
これは会社と開発者のOSS/FSに対する認識の差といえ、OSS/FSの長所・短所につい て会社側は理解するよう、開発者側はアピールするよう、努力していく必要があ る。とはいえ開発者個人の力は弱いので、コミュニティ単位で行動し、世論へ訴 えて行くことが必要である。また、OSS/FSに対して比較的理解を示している政 府、自治体などが啓発していくことも重要であろう。
2003年9月1日から11月1日までの約2ヶ月間実施された 「FLOSS-JP オープンソース / フリーソフトウェア開発者オンライン調査日本版」により、 以上のような分析結果が得られた。 これより、日本のOSS/FS開発者像は次のようにまとめられる。
開発者はほとんど (98%) が男性で、20代半ばから30代半ばが中心となって活動している。 現在の平均年齢は31.2才、開発参加平均年齢は26.6才、参加年数4.6年である。 欧米よりも3〜4才高く、参加年数は1.5年短い。 2000年以降に開発を始めた人が半数以上 (52.6%) を占めるが、 一方で1990年前後に始めた開発者も10%程度存在し、 日本のOSS/FS開発が歴史ある活動であることを示している。 約3分の1が大学院卒で高学歴者が中心だが、一方で中学・高校卒も22.5%おり、 意欲があれば誰でもOSS/FS開発に参加できる。 職業はソフトウェア関係の職業が半数を占める。 学生の割合 (14.5%) は欧州 (20.9%)、米国 (28.8%) よりも低く、 特に欧米では情報系の学生が3/4を占めるのに対し、日本では半分以下である。 現在の居住地は首都圏 (南関東) へ集中 (51.6%) している。
フリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアに対する考え方は、次のよう になる。3分の2の回答者はフリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアの 区別をしており、日本ではオープンソースの方が人気である。欧州調査ではフリー ソフトウェアが優勢、米国調査では両者が拮抗しており、三者三様の結果が得られた。 ライセンスはGPL を利用する開発者が多い。
実際にOSS/FSに費やす時間は、週5時間以下の趣味的な開発が多く、長時間開発者 は少数派だった。開発プラットフォームはLinuxが最多だが、Windowsも3割おり、 数%しかいない欧米調査と明確な違いが出た。参加したプロジェクト数やリーダ として率いたプロジェクト数はいずれも数個と少数であるが、半数弱がリーダ 経験があり、自分でプロジェクトを立ち上げることが多いことが判明した。その ため、コンタクトを取っているコミュニティメンバ数は少なく、ソースはオープ ンであるが、バザール型の開発にはなっていないと考えられる。
日本人は英語が苦手なため、国内コミュニティに留まりがちだと考えられていた が、実際には4割近くの開発者がグローバルコミュニティに参加している。英作 文が苦手でもグローバルコミュニティに参加している人も多く、本人の努力次第といえよう。
OSS/FS開発に参加するのは自分の知識やスキルの向上のため、という開発者が多く、 期待しただけの利益を得ているようである。 スキルというとプログラミング能力が問われそうであるが、 ドキュメント作成やサポートなどプログラミング以外の部分で貢献している開発者が多いことも明らかになった。 OSS/FS開発のきっかけもプログラム公開やパッチ送付が約半数、 作者とのメール、バグ報告、文書翻訳等それ以外が約半数という結果である。 こういった知識は独学で学んだ人が圧倒的多数 (62.5%) であり、 コミュニティ (8.6%) と企業実務 (14.1%) と合わせると85%が、 セミナーや大学講義など定式化されたOSS/FS教育を受けていない。 また、OSS/FS開発者は資格を持っている人は少ない。
署名に対する意識は若年層 (学生) とプログラマで低く、 著作物の権利関係の教育が不十分であるといえる。
OSS/FS開発に関連して金銭的な支援を受けている開発者は少数 (26.8%) であり、 欧州 (53.7%)、米国 (43.2%) と比べても少ないが、徐々に増加している。 また、自らのスキルアピールに利用し就職・転職に役立つようにもなってきている。 しかし、現状では開発者と会社側との認知には差が大きい。
最後に、本調査の結果から日本のOSS/FS開発を促進するための課題と方策を提言する。
日本のOSS/FS開発者の開発開始年齢が欧米より3〜4才高く、学生の割合が少ないのは、 大学や専門学校においてOSS/FSに触れる機会の少なさが原因と考えられる。 Windows環境で開発している人が3割 (欧米は数%) というのもこれを示しているだろう。 特に情報系の学生がそれ以外の学生よりも少ない (欧米は3/4が情報系) ことは、 日本の情報系大学教育の課題を明らかにしている。 欧米の大学ではOSS/FSを用いたプログラミング教育が行われており、 日本でも早急にカリキュラムに取り入れるべきである。 その中で、著作権やライセンスなどOSS/FSの基本的知識、 および、コミュニケーションスキルもカリキュラムに含む必要がある。
約6割の開発者がOSS/FSスキルを独学によって学んでいる。 OSS/FS開発が趣味の延長である開発者が多いことも事実だが、 今後OSS/FS開発を促進するには、体系的に学ぶ場を提供することも重要である。 多くの開発者がOSS/FS開発の目的に、スキル向上を挙げていることからも、 前述の大学教育だけでなく、社会人が利用できるセミナーやテキストの充実が望まれる。 そのためにはOSS/FSのスキルを体系化したOSS/FSスキル標準の策定が不可欠である。
OSS/FS開発で収入を得ている人は欧米では約半数に対し、日本では1/4に過ぎない。 多くの開発者が会社や学校にOSS/FS開発に関わっていることを知られていないが、 関与を認めて欲しい、対価を認めて欲しいとは感じている。 OSS/FS開発の意義を社会にもっと認知されるようになれば、 OSS/FS開発者の置かれた状況は改善するであろう。 そのためにはコミュニティや政府・自治体がOSS/FS開発に対する社会啓発活動を行うことが必要である。
OSS/FS開発に対する支援は年々増えている。 しかし、OSS/FS開発のビジネスモデルが確立しきれていない現状では充分とはいえない。 ここで必要なことは、 OSS/FS開発の促進は日本のIT産業の技術レベル向上・産業競争力向上に役立つ、 という意識を行政が持つことである。 特に小規模のプロジェクトスタートアップと著名OSS/FSの実用化レベルへ引き上げが 重要と考える。 また、継続的なソフトウェア改善のための複数年にわたる支援、および、 直接的なソフトウェア開発以外のドキュメント作成やサポート技術者への支援を 忘れてはならない。
本調査結果が日本のOSS/FS開発の促進、および、 OSS/FS開発者の置かれた現状の改善に資することを期待し、結言に代える。
本調査はOSS/FS開発者の方々の御協力なくしては実現致しませんでした。 御回答および広報に協力頂いたOSS/FS開発者の皆様に本当に感謝いたします。 SourceForge.jp / Slashdot.jp等における広報と Linux Kernel Conference 会場でのアンケートに協力頂いた VA Linux Systems ジャパン株式会社、 および Linux Conference 2003・関西オープンソース+フリーウェア 2003 会場でのアンケートに協力頂いたLinux協会と関西オープンソース+フリーウェア 2003 実行委員会の皆様にも感謝いたします。 また、FLOSS調査のリーダ Rishab Aiyer Ghosh 氏には、 設問の利用を快諾頂き感謝いたします。
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