株式会社三菱総合研究所 は、経済産業省の委託により現在実施している「オープンソースソフトウェア技 術者の人材開発に関する調査」の一環として、「FLOSS-ASIA オープンソース / フ リーソフトウェア開発者オンライン調査アジア版」と題するオンラインアンケー ト調査を行った。 本調査は、オープンソース / フリーソフトウェア開発者からオンラインアンケー トで直接意見を収集することにより、アジアにおけるオープンソース / フリーソ フトウェア (OSS/FS) 関連技術者の実態を明らかにすることを目的としている。 本調査の結果は、関係する技術分野に対する人材育成、技術振興施策などに活用 される予定である。
オープンソース/フリーソフトウェア (OSS/FS) は、 アジアでも主にコスト的側面から注目を集めている。 サーバ用途が中心の日本や欧米と異なり、 アジアではデスクトップ向けとしても大きく期待されており、 各国語に対応したLinuxやオフィススィートが開発されている。
しかし、アジアのOSS/FS事情は一様ではない。中国では多額の政府資金を投じ、 Windows相当のデスクトップLinux環境の開発を進めている。 韓国・台湾では組込みLinux製品の開発が盛んである。 このように東アジアではIT産業が既に発展しており、 自国IT産業育成のためにOSS/FSを支援している。 一方、東南アジアでは、タイやマレーシア等一部の国を除き OSS/FS活動はまさに始まったばかりである。パソコンが相対的に高額であるため、 主要IT課題の一つであるデジタルデバイド解消に向けて、 低価格デスクトップ環境としての期待がなによりも高い。
いずれの国においてもOSS/FS開発者の育成が国家的施策として急務となっている。 また、日本がアジアにおいてOSS/FS分野のイニシアティブを取り、アジアに貢献し、 ともに発展していくことも重要である。そこで本調査では、 これらの施策を検討する材料として、アジアにおけるOSS/FS開発者の実態を探る調査を実施した。
本調査は、2002年に欧州で実施されたFLOSSサーベイ (*1)、 2003年前半に米国で実施されたFLOSS-USサーベイ (*2) 、 我々が2003年後半に日本で実施したFLOSS-JPサーベイ (*3) のアジア版に相当する。 FLOSS調査は、欧州委員会のISTプログラムの支援を受け、 オランダのマトリーヒト大学 (International Institute of Infonomics University of Maastricht) が2002年に実施した。 FLOSS-US調査は国立科学財団 (NFS) の支援を受け、 スタンフォード大学の経済政策研究所 (Stanford University's Stanford Institute for Economic Policy Research (SIEPR)) が2003年に実施した。 FLOSSサーベイとFLOSS-USサーベイ調査は英語で実施されたため、日本やアジア各国の開発者からの参加はわずかしかなかった。 そこで、我々は日本語でFLOSS-JP調査を、アジア各国言語でFLOSS-ASIA調査を計画した。
調査は2003年12月1日から2004年1月30日までの約2ヶ月間、 三菱総合研究所のウェブサイト (http://oss.mri.co.jp/floss-asia/) においてオンラインアンケートシステムを用いて実施した。 英語、中国語 (簡体字、繁体字)、ハングル語、タイ語版のアンケートを用意し、英語の苦手な開発者でも調査に参加しやすいよう配慮した。 回答者はオープンソースあるいはフリーソフトウェア開発者であると自認する人々であり、 我々は特に制限は行っていない。
調査の設問は、世界的な比較をするために、 その多くを欧州FLOSS調査および米国FLOSS-US調査に由来する。 そのためFLOSS調査のリーダ Rishab Aiyer Ghosh 氏と協力した。 基本的にはFLOSS-JP調査と同一であるが、スキル開発に関していくつかの質問を追加した。 調査範囲は以下のような内容である。
約2ヶ月間の調査に対して、合計138名の方から回答をいただいた。 現地語版を用意した韓国とタイの2ヶ国からの回答が多く、台湾、中国が続く。 回答数が少なかった理由は、主にプロモーションの不足であろう。 各国コミュニティのニュースサイトやメーリングリストに掲載して頂いたが、 日本ではアナウンスを何回もいくつもの媒体で実施しており、 残念ながら広報不足の感は否めない。 また、各国語への翻訳精度が必ずしも高くなかった言語もあり、 回答者の協力が充分に得られなかった可能性も否定できない。
以下、日本、欧州、米国の各調査結果と比較しながら集計結果を分析していく。
まず、OSS/FS開発者個人のプロフィール (性別・家族構成・職業など) を見てみる。
日米欧の調査と同様、回答者のほとんどは男性 (98.5%) だった。家族構成は、 未婚者の割合が72.1%とかなり高くなっている。これは次に述べるように平均年 齢が低いことが原因だろう。
図1 (Q47) 家族構成
図2 (Q4) OSS/FS開発に関与しはじめた年
OSS/FSに関与し始めたのは日米欧に比べると遅く、1995年頃からであり、順調に増加している。
図3 (Q5) OSS/FS開発に参加したときの年齢
開発に参加しはじめた年齢の分布を図3に示す。 参加し始めた年齢は19歳から急速に増加し、20代前半が中心になっている。 学生もしくは社会人になってすぐにOSS/FS開発に関与し始めていることがわかる。
図4 現在の年齢
開発に参加した年とその時の年齢から現在の年齢を導くと、図4のような分布が 得られた。20代が中心となって活動していることがわかる。
開発参加年、開発参加年齢、現在の年齢の平均を日米欧の調査と比較したものを 表1に示す。2000年頃、23歳前後で開発に参加しはじめ、現在27歳前後、という のが平均的な開発者だといえる。日米欧と比較すると、アジアの平均年齢は欧米 とほぼ等しく日本よりも若い。参加時の年齢は日本と欧米の中間であり、開発参 加年は最も遅い。
表1 開発参加年、参加年齢、現在の年齢の平均、メディアン
| 日本 | 欧州 | 米国 | アジア | |||||
| 平均 | メディアン | 平均 | メディアン | 平均 | メディアン | 平均 | メディアン | |
| 開発参加年 | 1998.4 | 2000 | 1996.7 | 1998 | 1996.6 | 1999 | 1999.4 | 2000 |
| 参加年齢 | 26.6 | 26 | 22.9 | 22 | - | 22 | 24.3 | 23 |
| 現在の年齢 | 31.2 | 31 | 27.1 | 26 | - | 27 | 27.9 | 27 |
図5 (Q48) 学歴
図5に回答者の学歴を示す。大学卒が63.9%を占め、日米欧に比べると大学院卒の 割合は少ないが、アジアの大学院進学率、大学進学率は日米欧より低いと考えら れる。こういったアジア各国の事情を考慮すると、開発者は各国内では高学歴者 といわれている人々が中心だといえる。
図6 (Q49) 業種
開発者の職業は他の調査同様、ソフトウェア関係が多く、ソフトウェア技術者が 27.8%、プログラマが17.3%である (図6)。趣味としてだけでなく、仕事でもソフ トウェア開発に携わっている人が約半数いることになる。大学・研究機関も 12.0%いる。この中には研究として開発したソフトウェアをOSS/FSとして公開し ている人も少なからず存在すると考えられる。また、情報系のコンサルタントや 管理職の割合も6.0%ずつおり、多様な業種の人々が開発に関わっているといえる。 学生の割合は日本(14.4%) と同程度の15.8%とさほど高くないが、情報系の割合 は約2/3 (10.5%) と欧米(約3/4)に近い。
情報系・情報系以外にわけて業種を調査したが、少人数では統計的にばらつきが 大きくなってしまうため、また、他の調査との比較を可能にするため、以降の分 析では、表2のように業種をまとめることにする。まとめた結果は図7のようにな る。
図7 統合後の業種
表2 業種の分類
| ソフトウェア技術者 | ソフトウェア技術者 |
| 学生 | 学生 (情報系) |
| 学生 (情報系以外) | |
| プログラマ | プログラマ |
| 大学・研究機関 | 大学・研究機関 (情報系) |
| 大学・研究機関 (情報系以外) | |
| 技術者 (情報系以外) | 技術者 (情報系以外) |
| その他 | コンサルタント (情報系) |
| コンサルタント (情報系以外) | |
| 管理職 (情報系) | |
| 管理職 (情報系以外) | |
| 役員 (情報系) | |
| 役員 (情報系以外) | |
| 営業 (情報系) | |
| 営業 (情報系以外) | |
| その他 (情報系) | |
| その他 (情報系以外) |
図8 (Q51) 国籍
図9 (Q52) 現居住地
回答者の国籍・現居住国を表3、表4に示す。回答者の過半数を韓国 (31.6%、 30.8%) と タイ (26.3%、23.3%) が占め、 台湾、中国、マレーシアが続いてい る。各国でのOSSの活発さを反映したものというよりは、各国の開発者へアナウ ンスがどれくらい広まったか、ということを反映していると考えるのが妥当だろ う。国籍と現居住地の分布はほぼ等しく、海外に居住している開発者はほとんど いないことがわかる。
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図10 (Q1) オープンソース派かフリーソフトウェア派か |
図11 (Q2) FSコミュニティとOSコミュニティとの違い |
オープンソースとフリーソフトウェアの区別をしているか、しているならどちら の立場であるか、という質問をした。その結果、多くの回答者 (67.7%) はオー プンソースとフリーソフトウェアの区別をしており、オープンソースの方がフリー ソフトウェアよりも人気がある、ということがわかった (図10)。オープンソー ス派が42.1%、フリーソフトウェア派が25.6%であり、日本とほぼ同比率だった。 日本ではオープンソース派が43.7%、フリーソフトウェア派が26.7%である。なお、 欧州調査では、48.0%がフリーソフトウェアウェア派、32.6%がオープンソース派 だった。米国調査では、フリーソフトウェアウェア派とオープンソース派はほぼ 同率で31.4%と31.5%だった。
図12 立場による考え方の違い
次に、フリーソフトウェアのコミュニティとオープンソースのコミュニティは同 じか異なるか、という質問をした。図11のようにフリーソフトウェアとオープン ソースのコミュニティは「原則は違うが、仕事の仕方は同じ」だと考える人がほ ぼ半数 (48.1%) を占めた。区別しない人は15.0%にとどまり、大部分はフリーソ フトウェアとオープンソースの違いを認識していることがわかった。コミュニティ の区別をしない人の多くはオープンソース側にもフリーソフトウェア側にも立た ない中立の人々であり、どちらかの立場に立つ人は、ほとんど (オープンソース 側で94.6%、フリーソフトウェア側で94.1%) が互いの違いを意識している (図 12)。また、互いの違いに対する認識も似通っており、考え方も仕事の仕方も違 う、と答えた人が原則は違うが仕事の仕方は同じ、と答えた人よりやや多い (46.4%と44.1%)。これらの結果より、コミュニティの区別をしている人は「なん となく」ではなく、しっかりとフリーソフトウェアとオープンソースの思想の違 いを理解した上でOSS/FSの開発に参加していることがわかる。
図13 (Q3) 選択するライセンス
図14 立場によるライセンスの違い
最後に、自分の作成したコードに他のコードとの依存関係がなく、自由にライセ ンスを選択できるとしたら、どのようなライセンスを選ぶか、という質問をした (図13)。堅苦しい、難しいと思われがちなライセンスであるが、とくに意識しな い開発者は9.0%と少数だった。 ライセンスはGPL互換 (64.7%)が圧倒的に好まれており、BSDスタイルが15.0%で 続いた。立場別に見ると (図14)、GPL互換はオープンソース派にもフリーソフト ウェア派にも好まれ、約7割 (69.6%と73.5%) である。日本でGPL互換を選んだ人 は42.0%であるから、64.7%という割合はかなり高いといえる。
図15 (Q6) 週平均OSS/FS開発時間
アジアにおいてもOSS/FS開発時間は比較的短かった。 日本よりはやや長いが、それでも週5時間以下の開発者が49.7%とほぼ半数を占め る。 一方、41時間以上費やしている回答者も6.0%おり、 彼らは業務としてOSS/FS開発に取り組んでいる可能性が高い。
図16 (Q8) OSS/FS開発対象分野
開発対象分野はネットワーク、ウェブサービスが多く、マルチメディア系は少な かった (図16)。ネットワークやウェブサービスではスクリプトやユーティリティのよう な小さなプログラムが多く、容易に開発できるためだと考えられる。
対象分野の上位4分野は日本・欧州調査とまったく同一だった。ただし、4分野を 対象にしている割合はそれぞれ10〜15%ほど高い。
開発者がどのような開発言語/ツールを用いてOSS/FSの開発を行っているのかを知 るため、開発プラットフォームや使用言語・ツールなどの質問をした。
図17 (Q9) 最もよく使うプラットフォーム
最もよく使うプラットフォームとしてはLinux系 (RedHat, Debian, Vine, Turbo, Plamo, Gentoo, Mandrake, SuSE, Slackware, その他のLinux) が71.4%でトップ (図17)、 Windowsが15.0%で2番である。
プログラミングを始めたときに使っていたプラットフォームもLinuxが多い。 WindowsとDOSの割合も高い。WindowsやDOSからLinuxに移行した開発者が多いこ とがわかる。
OSS/FS開発を始めたときに使っていたプラットフォームは最もよく使うプラット フォームとほぼ等しい。アジアにおけるOSS/FSの歴史は短いため、ディストリ ビューションの変更以外には大きなプラットフォームの変更が無かったのだろう。
図18 (Q12) 経験のある開発言語/ツール
開発言語としてはC、C++、Javaといったメジャーな言語が上位にはいった。また、 60.9%がPHP、55.6%がSQLの経験があり、データベースを利用したウェブサービス を構築している開発者が多いことを示している。
図19 (Q13) 最もよく使うデスクトップ環境
最もよく使われているデスクトップ環境はGNOMEだった (39.1%)。KDEやX + Window Managerもあわせると66.1%の開発者がOSS/FSデスクトップ上で作業して いることがわかる。
OSS/FSコミュニティへの関わりを時間的側面からだけでなく、プロジェクトの面 からも調査した。調査内容は参加した/しているプロジェクト数、コンタクトの ある開発者数、リーダ経験といったことである。
図20 (Q15) これまでに参加したことのあるプロジェクト数
これまでに参加したことのあるプロジェクト数はそれほど多くなく、67.7%は5プ ロジェクト以下である。 (図20)。
図21 (Q16) 現在参加しているプロジェクト数
現在参加しているプロジェクト数も少なく、1個、2個と答えた人が36.1%と23.3%、 1個も参加していないという人が17.3%だった (図21)。しかし、累計プロジェク ト数も現在参加しているプロジェクト数も日本よりやや多い傾向にある。
図22 (Q17) 現在リーダとして参加しているプロジェクト数
リーダ経験は半数近く (45.9%) は無いが、残りの人は自分がプロジェクト を率いたことがある (図22)。つまり、自分自身でプロジェクトを立ち上げる形で参加 している開発者がかなり多いといえる。リーダ経験のある開発者の割合は、日本 (56.6%) と欧州 (35.2%) のちょうど中間である。
図23 (Q18) 定期的にコンタクトのあるコミュニティメンバ数
OSS/FSコミュニティへの関与を知るために、開発者がどれくらいの人と定期的に コンタクトを取っているかを調べた。コンタクトを取る人数は数人 (0人が 24.1%、1〜5人が計38.4%) であるが、日 本 (0人が34.6%、1〜5人が計33.3%) よりやや多い。
図24 (Q19) 主な活動の拠点
日本でもグローバルコミュニティで活動している開発者の割合は高かった (37.7%) が、アジアではさらに高いことが明らかになった。国内コミュニティ のみで活動している開発者は47.4%であり、残りの52.6%はグローバルコミュニティ で活動している。
図25 (Q21) 英語の読み書き、英会話に関する能力
回答者の英語力は日本人よりも高い。 ただし、2つの理由から必ずしもアジア各国の英語力の高さを意味してはいない可能性がある。 一つはアジア各国の国内コミュニティが発達していないため、 結果的にグローバルコミュニティでの活動が必要になるということである。 もう一つは回答者が意識が高く活発な開発者であった可能性である。 ローカルコミュニティでのプロモーションが不足していたため、 コミュニティの主要人物が回答者の多くを占めていた可能性がある。 英語力が高い回答者ほどグローバルに活動する傾向にあるのは日本と同じである。
図26 (Q20) OSS/FS開発に参加する主な活動の種類
OSS/FS開発に参加する主な活動の種類としては、コーディング関係 (メイン機能 の開発、バグフィクス、改良パッチの作成、テスト) をあげた人が上位に入った が、日本と同様ドキュメント作成・翻訳やサポートを行っていると答えた人も10〜 15%ずつおり、コーディング以外で貢献している開発者も多数存在することがわ かった (図26)。日本 (10.8%) よりもローカライズの割合が高いのは (18.0%)、 ローカライズが日本よりも遅れているからだと考えられる。
図27 (Q26) OSS/FSの開発に関する知識は主にどこで学びましたか?
OSS/FSに関する資格は日本 (7.9%) よりやや多い13.5%が持っているが、やはり 少数である。OSS/FSに関する知識は独学で学んだ人が多いが日本よりは少ない。 大学で学んだ人も多く、合計22.6%である。特に理工系で学んだ人 (11.3%) が情 報系で学んだ人 (9.8%) よりも多いのは興味深い。情報系の人は独学で学んだと いう可能性が高いが、理工系でもOSS/FS関係の教育がなされているということで ある。
図28 (Q27, Q28) OSS/FS開発に参加する動機
自分/他人がOSS/FS開発に参加する動機は何か、自分/他人はOSS/FSコミュニティ に何を期待するか、OSS/FSコミュニティの目的は何か、という5つの質問に対し ては、日米欧同様、いずれも知識やスキルの獲得、共有が目的だと考える人が多 数を占めた(図28)。また、他人は自分ほどスキルを重視せず、プロプラエタリソ フトウェアをよくないと考えている、という傾向は日本と同様である。一方、他 人は名声や金銭のために参加していると考えている開発者が多いことは日本との 大きな違いとなっている。
図29 (Q29) OSS/FSへの最初のかかわり
OSS/FSへの最初のかかわりは、日本では自分のプログラムの公開 (36.5%) やパッ チの送付(16.2%) のようなコーディングがきっかけの人が約半数だった。アジア ではむしろコーディング以外で関わり始めた人が多く、作者とメールのやりとり をした (20.5%)、友達の質問に答えた (15.6%)、MLでユーザの質問に答え た (14.8%)というきっかけが半数 (50.5%) だった。OSS/FSへの参加はコー ディングだけではない、ということが日本以上にうかがえる。ただし、図26で見 たように現在の活動内容としてはコーディングを行っている人が多い。OSS/FS開 発に参加することによってコーディングの技術を身につけた人も多いと推測され る。
ソースコード類への署名は、自分が仕事をした証明である。そこで、開発者が署 名に対してどのような認識をしているのか調査した。
図30 (Q35) ソースコードへの署名
署名に対する意識はアジアでも低く、日本とほぼ同様の結果が得られた。88.0% が署名をすると答えたが、本名で記載する開発者は27.8%にとどまっている。
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図31 (Q36) OSS/FSに関連した収入源の有無とその手段 |
図32 (Q37) OSS/FSに関連した間接的な報酬 |
OSS/FSに関連した金銭的、もしくは間接的な報酬を約半数 (金銭的:45.1%、間 接的:50.4%) の開発者が得ており、支援を受けている人の割合は欧米並である。 欧州調査では金銭的な報酬を受け取っている人は53.7%、米国調査では43.2%だっ た。これらと比較すると日本調査の26.8%という低さが目立つ。
図33 (Q42) 過去5年間の支援元
支援元は大学や公的機関が中心であり、民間企業の支援が中心の欧米とも、公的 機関の支援は多いが大学の支援は少ない日本とも異なっている。
図34 (Q43) OSS/FS開発認知 (現状)
図35 (Q44) OSS/FS開発認知 (希望)
会社 (学校) 側が回答者のOSS/FS開発への関わりを認知しているかどうかについ ては、日本と米国の中間の結果が得られた。すなわち、「会社は関与を知ってい る」割合が日本、米国、アジアの順に34.7%、59.2%、39.1%、「会社は関与を知 らない」割合が22.6%、40.8%、33.8%だった。 日本と同様多くの開発者は関わっていることを認めて欲しい (23.3%)、対価を認 めて欲しい (32.3%) と感じており、現状のままでよいと感じているのはわずか 10.3%である (図35)。本当は仕事としてOSS/FSに関わりたいというのが、 OSS/FS開発者の願いである。
以降の6質問はアジア調査独自の質問項目である。 OSS/FSコミュニティに参加することでどのようなスキルが得られるのか、実際に 役に立っているのか、効率的な学習法なのだろうか、ということを調査した。
図36 (Q53) 一般的にOSS/FSコミュニティに参加することで学ぶことが多いと思いますか?
86.5%の開発者はOSS/FSコミュニティから学ぶことは多いと感じており、学ぶこと はないと感じている人はいなかった。
図37 (Q54) 個人的な経験からOSS/FSコミュニティに参加して何を学びましたか?
学ぶ内容は、プログラミング技法 (54.1%) 、システムデザイン技術 (45.1%) な どの技術的なこと以外に、他人と協力して仕事を進めること (38.3%)、他人から の批評を受け入れ、対応すること (26.3%) といった人間関係、コミュニケーショ ンスキルに関することも多い。
図38 (Q55) ソフトウェア開発スキルをどのように学びましたか?(仕事/学校/大学以外で)
仕事等以外でどのようにソフトウェア開発スキルを学んだか、という質問に対し ては、プログラミングの本や雑誌を読んだ人 (27.8%) よりも他人のソースコー ドを読んで学んだ人 (40.6%) の方が多く、ソースコードが公開されていること がソフトウェア開発スキルの向上に役立っていることがわかる。
図39 (Q56) 毎月平均何時間をソフトウェア開発スキルの学習にあてていますか?
OSS/FSの開発者は比較的長時間をソフトウェア開発スキルの学習に費しており、 41時間以上をあてている開発者が19.5%である。
図40 (Q57) OSS/FSコミュニティの中で得られたスキルについて
OSS/FSコミュニティへの参加が、純粋に趣味によるものか、自身の仕事に役に立 つからか、といったことを調査したところ、55.6%は自分の仕事のコアスキルで あり、30.1%はコアスキルではないものの仕事の役に立っていると答えた。仕事 の役に立っていない開発者は14.3%と少数である。
図41 (Q58) OSS/FSコミュニティにおける自己組織的な学習方法は、大学や会社における より定式化された学習方法よりも効率的であると思いますか?
また、OSS/FSコミュニティでの学習は大学や会社における学習よりも効率的だと 考える人が70.7%であり、非効率的だと考える人はわずか5.3%だった。
これらよりOSS/FSコミュニティでの学習は効率的であり、かつ仕事の役にも立っ ているといえ、OSS/FS開発は企業にとっても開発者に対して何らかの対価・報酬 を与えるに値する活動であるといえるだろう。
アジアのOSS/FS開発者の全体像は以下のようにまとめられる。
まず、回答は韓国とタイの開発者が中心だった。アジアでのOSS/FS開発の始まり は日米欧より遅く、2000年頃に23才前後で開発し始めた人が多い。彼らのほとん ど (98.5%) は日米欧同様男性で、年齢が若いことから未婚者が多い (72.1%)。 学歴は大学卒が多く (63.9%)、大学院卒が多い日米欧ほどではないものの、 アジア各国内の平均と比較すると高学歴であろう。職業はソフトウェア関係が多い が、学生も15.8%おり、そのうち10.5%が情報系の学生である。情報系の学生の方 がその他の学生より少ないのは日本のみだった。
オープンソースとフリーソフトウェアはアジアでも区別している開発者が多かった。 オープンソース派が42.1%、フリーソフトウェア派が25.6%であり、日本とほぼ同 じ割合だった。一方、ライセンスとしてはGPLが圧倒的に好まれ (64.7%)、知識 を貪欲に吸収しようという姿勢が垣間見える。
開発時間や開発対象に目立った特徴はなかったが、ネットワークやウェブサービ ス関係を開発している割合が高く、それを反映してPHPやSQLの経験がある開発者 が多かった。開発環境やよく使うデスクトップ環境はLinuxが中心(約70%)だが、 Windowsも15〜20%あり、日本と欧米の中間である。
グローバルコミュニティへの参加比率は日本より高く (52.6%)、英語力も高い傾 向にあったが、日本人の英語力が低いとは言い切れない。OSS/FS開発の開始が最 近のため、アジア各国の国内コミュニティが発達していないということが考えら れるからである。
OSS/FS開発に関する知識は独学で学んだ人が最も多い (54.9%) が大学で学んだ 人も多い (22.6%)。情報系 (9.8%) だけでなく、理工系でもOSS/FSに関する教育 がなされている (11.3%) のが特徴となっている。
自分や他人がOSS/FS開発に参加する動機は、日米欧同様、知識・スキルの獲 得・共有が中心である。ただし、他人は名声や金銭のために参加していると感じ ている開発者が多く、アジアの特徴となっている。OSS/FSとの関わりのきっかけ は作者・友達・MLでのメールのやりとりが多く、コーディングがきっかけの人は 日本と異なり少数である。
OSS/FSに関して直接的、間接的な報酬を得ている開発者は直接、間接とも約半数 (45.1%と50.4%) と欧米並の比率である。支援元に大学もしくは学校が多い (18.8%) のが特徴である。支援を受けている割合は欧米並であるものの、会社や 学校からの認知度は欧米には及ばず、認知の向上を期待している。
アジア版独自の調査項目として、OSS/FSコミュニティにおけるスキル開発につい て尋ねたところ、コミュニティでの学習はセミナーなどの既存の学習法より効率 的に学習できる (70.7%) と考えられていることが判明した。学習した内容はプ ログラミング技法 (54.1%) のような技術的なことだけでなく、人間関係、コミュ ニケーションスキルなど幅広く、それらが実際の仕事に役に立っている開発者が 多い (85.7%)。
全体として欧米と日本の間にアジアが位置している項目が多かった。 広報不足もあり残念ながら回答数は充分とは言えなかったが、 アジアの活発な開発者の傾向は浮かび上がったと考えられる。
日本と比較して 最も特徴的なことは学校機関の積極性である。学校機関が情報系に限定せずに教育を行い、 また、積極的な支援を実施しているため、若いOSS/FS開発者が次々に生み出され ている。我々はFLOSS-JP調査のまとめにおいて日本の大学教育が課題の1つであ ると述べた。欧米だけでなくアジアの大学教育も調査し、日本の教育に反映させ ていくべきであろう。 また、日本とアジアに共通して民間の支援が少ないことは、 まだまだOSS/FSビジネスが発展途上であることを意味している。 多くの開発者はOSS/FSビジネスの中で収入を得たいと考えており、 今後アジアでOSS/FSビジネスが根付くことが、OSS/FS開発の振興の鍵になることは間違いない。 そのためには、OSS/FS開発への社会的認知の向上と、 OSS/FS開発に対する公的支援策のさらなる充実が欠かせない。
本調査結果がアジアのOSS/FS開発の促進、および、 OSS/FS開発者の置かれた現状の改善に資することを期待し、結言に代える。
本調査はOSS/FS開発者の方々の御協力なくしては実現致しませんでした。御回答 および広報に協力頂いたOSS/FS開発者の皆様に本当に感謝いたします。特にアジ ア各国の言語に翻訳し、各国コミュニティにアナウンスしていただいた以下の方々 には大変感謝しております。
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