2003年12月〜2004年1月に実施した、アジアにおけるオープンソース/フリーソフトウェア (OSS/FS) 開発者に対するアンケート調査FLOSS-ASIA の調査結果の概要を報告する。 なお、調査結果の詳細は 三菱総合研究所のウェブサイト において公開されているので、 ご興味のある方は参照されたい。
オープンソース/フリーソフトウェア (OSS/FS) は、 アジアでも主にコスト的側面から注目を集めている。 たとえば、中国では多額の政府資金を投じ、 Windows相当のデスクトップLinux環境の開発を進めている。 韓国・台湾では組込みLinux製品の開発が盛んである。 このように東アジアではIT産業が既に発展しており、 自国IT産業育成のためにOSS/FSを支援している。 一方、東南アジアでは、タイやマレーシア等一部の国を除き OSS/FS活動はまさに始まったばかりである。 デジタルデバイドの解消に向けて 低価格デスクトップ環境としての期待がなによりも高い。
いずれの国においてもOSS/FS開発者の育成が国家的施策として急務となっている。 また、日本がアジアにおいてOSS/FS分野のイニシアティブを取り、アジアに貢献し、 ともに発展していくことも重要である。そこで本調査では、 これらの施策を検討する材料として、アジアにおけるOSS/FS開発者の実態を探る調査を実施した。
本調査は、2002年に欧州で実施されたFLOSSサーベイ (*1)、 2003年前半に米国で実施されたFLOSS-USサーベイ (*2) 、 我々が2003年後半に日本で実施したFLOSS-JPサーベイ (*3) のアジア版に相当する。 FLOSSサーベイとFLOSS-USサーベイ調査は英語で実施されたため、 日本やアジア各国の開発者からの参加はわずかしかなかった。 そこで、我々は日本語でFLOSS-JP調査を、アジア各国言語でFLOSS-ASIA調査を計画した。
調査は2003年12月1日から2004年1月30日までの約2ヶ月間、 三菱総合研究所のウェブサイト (http://oss.mri.co.jp/floss-asia/) においてオンラインアンケートシステムを用いて実施した。 英語、中国語 (簡体字、繁体字)、ハングル語、タイ語版のアンケートを用意し、英語の苦手な開発者でも調査に参加しやすいよう配慮した。 回答者はオープンソースあるいはフリーソフトウェア開発者であると自認する人々であり、 我々は特に制限は行っていない。
最終的に138名の方から回答をいただいた。 回答数が少なかった理由は主にプロモーションの不足であろう。 また、翻訳精度が必ずしも高くなかった言語もあり、 回答者の協力が充分に得られなかった可能性も否定できない。
調査の結果、アジアのOSS/FS開発者の全体像は以下のようにまとめられた。
まず、回答は現地語版を用意した韓国とタイの2ヶ国からの回答が多く、台湾、中国が続く。 アジアでのOSS/FS開発の始まり は日米欧より遅く、2000年頃に23才前後で開発し始めた人が多い。彼らのほとん ど (98.5%) は日米欧同様男性で、年齢が若いことから未婚者が多い (72.1%)。 学歴は大学卒が多く (63.9%)、大学院卒が多い日米欧ほどではないものの、 アジア各国内の平均と比較すると高学歴であろう。職業はソフトウェア関係が多い が、学生も15.8%おり、そのうち10.5%が情報系の学生である。情報系の学生の方 がその他の学生より少ないのは日本のみだった。
オープンソースとフリーソフトウェアはアジアでも区別している開発者が多かった。 オープンソース派が42.1%、フリーソフトウェア派が25.6%であり、日本とほぼ同 じ割合だった。一方、ライセンスとしてはGPLが圧倒的に好まれ (64.7%)、知識 を貪欲に吸収しようという姿勢が垣間見える。
開発時間や開発対象に目立った特徴はなかったが、ネットワークやウェブサービ ス関係を開発している割合が高く、それを反映してPHPやSQLの経験がある開発者 が多かった。開発環境やよく使うデスクトップ環境はLinuxが中心(約70%)だが、 Windowsも15〜20%あり、日本と欧米の中間である。
グローバルコミュニティへの参加比率は日本より高く (52.6%)、英語力も高い傾 向にあったが、日本人の英語力が低いとは言い切れない。OSS/FS開発の開始が最 近のため、アジア各国の国内コミュニティが発達していないということが考えら れるからである。
OSS/FS開発に関する知識は独学で学んだ人が最も多い (54.9%) が大学で学んだ 人も多い (22.6%)。情報系 (9.8%) だけでなく、理工系でもOSS/FSに関する教育 がなされている (11.3%) のが特徴となっている。
自分や他人がOSS/FS開発に参加する動機は、日米欧同様、知識・スキルの獲 得・共有が中心である。ただし、他人は名声や金銭のために参加していると感じ ている開発者が多く、アジアの特徴となっている。OSS/FSとの関わりのきっかけ は作者・友達・MLでのメールのやりとりが多く、コーディングがきっかけの人は 日本と異なり少数である。
OSS/FSに関して直接的、間接的な報酬を得ている開発者は直接、間接とも約半数 (45.1%と50.4%) と欧米並の比率である。支援元に大学もしくは学校が多い (18.8%) のが特徴である。支援を受けている割合は欧米並であるものの、会社や 学校からの認知度は欧米には及ばず、認知の向上を期待している。
アジア版独自の調査項目として、OSS/FSコミュニティにおけるスキル開発につい て尋ねたところ、コミュニティでの学習はセミナーなどの既存の学習法より効率 的に学習できる (70.7%) と考えられていることが判明した。学習した内容はプ ログラミング技法 (54.1%) のような技術的なことだけでなく、人間関係、コミュ ニケーションスキルなど幅広く、それらが実際の仕事に役に立っている開発者が 多い (85.7%)。
全体として欧米と日本の間にアジアが位置している項目が多かった。 広報不足もあり残念ながら回答数は充分とは言えなかったが、 アジアの活発な開発者の傾向は浮かび上がったと考えられる。
日本と比較して 最も特徴的なことは学校機関の積極性である。学校機関が情報系に限定せずに教育を行い、 また、積極的な支援を実施しているため、若いOSS/FS開発者が次々に生み出され ている。我々はFLOSS-JP調査のまとめにおいて日本の大学教育が課題の1つであ ると述べた。欧米だけでなくアジアの大学教育も調査し、日本の教育に反映させ ていくべきであろう。 また、日本とアジアに共通して民間の支援が少ないことは、 まだまだOSS/FSビジネスが発展途上であることを意味している。 多くの開発者はOSS/FSビジネスの中で収入を得たいと考えており、 今後アジアでOSS/FSビジネスが根付くことが、OSS/FS開発の振興の鍵になることは間違いない。 そのためには、OSS/FS開発への社会的認知の向上と、 OSS/FS開発に対する公的支援策のさらなる充実が欠かせない。
本調査結果がアジアのOSS/FS開発の促進、および、 OSS/FS開発者の置かれた現状の改善に資することを期待し、結言に代える。
本調査はOSS/FS開発者の方々の御協力なくしては実現致しませんでした。御回答 および広報に協力頂いたOSS/FS開発者の皆様に本当に感謝いたします。特にアジ ア各国の言語に翻訳し、各国コミュニティにアナウンスしていただいた以下の方々 には大変感謝しております。
本調査は株式会社三菱総合研究所が経済産業省より委託された 「オープンソースソフトウェア技術者の人材開発に関する調査」の一環として実施しました。
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