教育現場におけるLinuxPC活用のポイント

今回のプロジェクトを通じて、教育現場におけるIT活用授業の実施において、 Linux PCに一定の実用性があることが検証された。しかし、教員がLinux PCに慣 れていないこともあり、継続した利用には課題もあることが分かった。

Linux PCを教育現場に実際に導入した経験から、Linux PCの利用方法と課題を、 導入時、授業での利用、運用・保守の観点から整理してみる。

導入時

(a) Linuxディストリビューションの選定

Linux PCを導入する上で最初に悩むのが、Linuxディストリビューションの選択 である。Linuxディストリビューションとは、Linux OSの上に様々なオープンソー スソフトウェアが同梱されたものである。

Linuxディストリビューションには、商用製品と無償のものがある。商用Linuxディ ストリビューションには、きれいに文字を表示するための日本語フォント、漢字 変換ソフト、および、オフィススィート等のいくつかの商用製品が通常含まれる。 これらはオープンソースソフトウェアにもあるので必須のものではないが、とく に日本語フォントと漢字変換の商用製品は使い勝手や見栄えの点で優れている。

具体的な候補としては、以下が挙げられるだろう。

(b) Linuxのインストールと設定

現在、LinuxをプレインストールされたPCは、ほとんど販売されていない。この ため、まずOSが含まれていないPCに自分でインストールする必要がある。インス トール作業自体は簡単になってきているが、数十台のPCに対してLinuxをインス トールする作業はかなりの時間を要する。また、ネットワークアドレスやユーザ 設定などのインストール時の設定作業は、多くはないがある程度Linuxの知識を 必要とする。

ただし、一部のメーカや販売店がLinuxのプレインストールPCの販売を始めてお り、それを利用するのも一つの方法である。

(c) 導入教育

教員に対して、Linux PCの基本的な操作方法の研修は必要である。起動・終了、 デスクトップの基本操作、ブラウザの利用程度であれば、2〜3時間の研修でも一 通り使えるようになる。

子ども達に対しては、基本的な使い方さえ教えれば、勝手に教えあって使えるよ うになるので、あまり心配する必要はない。

(d) 既存Windows環境との互換性

Linux PCを導入する際に課題となるのが、既存のWindows環境との互換性である。 それまでのIT活用授業が、インターネットの調べ学習や、Webベースの教材コン テンツの利用が中心であれば、一部に利用できないものがあっても問題は少ない。

しかし、Windowsでしか動かない教育用グループウェアや教育用e-ラーニングソ フトを利用している場合には、Linux PCから使えないことを認識する必要がある。

(e) 周辺機器の接続

プリンタ、デジタルカメラ、スキャナ、プロジェクタ、USBメモリ、電子情報ボー ドなどPCと一緒に使う周辺機器がLinuxでも使えることは事前に確認しておくべ きである。多くの周辺機器はLinuxからでも使えるが、操作性が劣ったり、一部 の機能が使えなかったり、あるいは、まったく使えないものもある。

また、周辺機器を使えるようにするための設定作業は、Linuxではまだ簡単とは 言えない。CD-ROMやUSBメモリなどのように、接続するだけで自動的に認識され るものもある。しかし、新しい機種のプリンタなどでは、ドライバをインターネッ トで探してダウンロードし、それを手作業で適切な場所にインストールしなけれ ばならない。また、周辺機器の接続手順はLinuxディストリビューションによっ ても多少異なる。

周辺機器はWindowsを対象としているため、メーカのマニュアルにはLinuxでの接 続手順は記載されていない。接続手順をわかりやすく記述したマニュアルが強く 求められている。

授業での利用方法

Linux PCを利用したIT活用授業は、本質的にはWindows PCのそれと同じである。 ただし、Linuxに対応した商用の教育用ソフトウェアは少ないので、オープンソー スソフトウェアやWebベースの教材コンテンツ・教育用ソフトウェアに限られる。 そのような制約の中でも、次のようなLinux PCの利用方法がある。いずれも今回 のプロジェクトの中で実際に授業が行われた利用方法である。

(a) Webブラウザを使った調べ学習

最も基本となるのがWebブラウザを使ってインターネットの調べ学習である。Web ブラウザには「モジラ(Mozilla)」あるいは、その後継である「ファイアフォッ クス(Firefox)」を利用する。Webブラウザの利用方法はWindows PCのインターネッ ト・エクスプローラとまったく同じである。

ただし、一部のホームページはインターネット・エクスプローラでしか見られな いことがあるので、その点に注意が必要である。

(b) 教材コンテンツの閲覧

最近、Webブラウザで閲覧する教材コンテンツが急増しており、国や教育機関で 数多く公開されている。これらの教材コンテンツの多くはLinux PC上のWebブラ ウザでも問題なく閲覧できる。例えば、以下の教材コンテンツがLinux PCから利 用できる。

ただし教材コンテンツに関しても、インターネット・エクスプローラによる閲覧 に特化しているコンテンツが一部存在することに注意が必要である。

(c) お絵かき・画像処理ソフトの利用

子ども達の関心が高いのが、お絵かきや画像処理ソフトである。お絵かきソフト 「タックスペイント(TuxPaint)」は、スタンプ機能などが充実しており、小学校 低学年でも十分に利用できる。デジカメを利用した画像合成や画像編集には、商 用製品にも劣らない機能豊富な「ギンプ(GIMP)」が利用できる。図工や総合学習 で有用である。

(d) ワープロの利用

本格的なワープロの操作方法は高校の情報の範囲であるが、作品を制作するとい う観点でならば小中学生でも十分に利用価値がある。図工でポスターを制作した り、国語で詩や感想文を凝ったレイアウトで制作したりといった作業は、子ども 達にとっても楽しい授業になる。

また、プレゼンテーションソフトを使って、学習のまとめを作成したり、プロジェ クタにつないで発表したり、掲示物を作成することもできる。

ワープロやプレゼンテーションソフトは「オープンオフィス(OpenOffice.org)」 が利用できる。商用Linuxディストリビューションであれば、「オープンオフィ ス」に様々なテンプレートやクリップアートが付属した「スタースイート (StarSuite)」も利用できる。

(e) ビデオチャットの利用

他校の児童・生徒と共同して学習を進める教育が始まっている。このような共同 学習においては、Web掲示板の利用が最も簡単である。Webブラウザで掲示板にア クセスするだけなので、非常に簡単ではあるが、時間をおいてわずかな文字情報 をやりとりするため、緊密な共同学習は難しい。

そこでリアルタイムに顔を見ながらやりとりできる、ビデオチャットを利用する ことは学校間の緊密な交流を促す。ビデオチャットには「グノームミーティング (GnomeMeeting)」を使う。Windowsの「ネットミーティング(NetMeeting)」と互 換性があるので、他校との接続も心配ない。数千円で購入できるカメラを数台用 意すれば、高価なテレビ会議システムを導入しなくても、グループ単位で他校と 共同学習が可能になる。

(f) 共同学習システム「スタディノートWeb掲示板」の利用

今回開発した「スタディノートWeb掲示板」も共同学習の基盤となるソフトウェ アである。一般のWeb掲示板では、文字情報と1〜2枚の画像だけしか、やりとり できないが、「スタディノートWeb掲示板」では、マルチメディア情報を含む学 習のまとめを学校間で共有することができる。このため、地域全体で協力した環 境調査活動や、複数校で互いに評価しあう作品コンテストを行うこともできる。

(g) その他の教育用ソフトウェアの利用

Linux PC上で動作する教育用ソフトウェアは多くはないが、教員が作成したもの を含めいくつかある。最近はPC環境に依存しないソフトウェアやWebベースのも のが出てきており、今後増える傾向にあることは確かであろう。

例えば、以下のような教育用ソフトウェアがある。

運用・保守

Linux PCの運用・保守は、教員が最も心配する点である。数十台のLinux PCの運 用・保守には、単に授業で利用する以上の知識と経験が必要である。一定の手順 さえ覚えれば、大半の運用・保守は可能であるが、現在Linuxの知識を持つ教員 はほとんどいないので、困ったときに周囲に訊ねられないことが最大の問題であ る。インターネットからLinuxの情報を収集し、自分で作業できるようになる必 要があるため、運用・保守に対する教員のハードルは高いといわざるを得ない。 運用・保守については、次のような作業が必要となる。

(a) ソフトウェアのバージョンアップ

現在利用しているソフトウェアを、機能改良やセキュリティ対応された際に、バー ジョンアップする作業である。Linuxには、導入されている全てのソフトウェア の構成やバージョンを管理するツールがあり、この管理ツールを使ってバージョ ンアップが可能である。

また、Windows PCでも、定期的に数十台をWindows Updateし、ウイルス定義ファ イルを更新する作業は必要である。この更新作業に多くの時間をとられているIT 担当の教員も少なくない。個別のソフトウェア毎にバージョンアップが必要な Windowsよりも簡単な作業である。

さらに、Linuxには、多数のPCを同時にバージョンアップするための「クラスルー ムPC管理ソフトウェア」がある。まだ一般的なソフトウェアではないが、今後こ れが普及すれば、PC運用・保守の作業は大幅に簡素化できる可能性がある。

(b) 新しいソフトウェアの導入

Linuxディストリビューションに含まれているソフトウェアであれば、バージョ ンアップ同様に管理ツールで簡単に導入できるため問題は少ない。

しかし、教育用ソフトウェアは通常Linuxディストリビューションに含まれてい ないため、特別な方法でインストールする必要がある。この作業はLinux にある 程度精通した教員でないと難しいという課題がある。

(c) 周辺機器の接続

おそらく運用・保守で最も問題になるのが、導入時でも述べた周辺機器の接続で あろう。新しい周辺機器を購入した際に、一般の教員では接続できない可能性が 高い。

この問題の解決は容易ではないが、教員向けのLinux PC管理の分かりやすい手引 書を作成することが急務である。

(d) コミュニティの形成・参加

運用・保守の問題は、地域を越えて教員がLinux PCに関する情報交換するコミュ ニティを作ることが、本質的な問題解決への道である。Linuxのユーザは、10年 以上前からコミュニティを作り、全国規模あるいは地域毎に情報交換を行ってき た。教員がこれらのコミュニティに参加して情報交換を行えるようになることが、 最初のステップである。

さらに、教員自身がコミュニティを形成し、新しくLinux PCを使い始めた教員に 情報を伝達するようになれば、安心してLinuxを使えるようになるだろう。

なお、すでに海外では、教育機関におけるLinux PCの普及や情報交換を目的とし たコミュニティがいくつか形成されている。